美しが丘の家


撮影:淺川敏

用途 2世帯住宅
場所 横浜市青葉区
構造 木造2階建て 駐車場部分RC造 新築
規模 建築面積:111.79㎡
延床面積:245.18㎡
敷地面積 268.54㎡
施工 2014年4月
構造設計 山辺構造設計事務所
設備計画監修 ZO設計室
照明計画監修 コモレビデザイン
外構設計監理 ふるうち設計室
施工 千広建設

建物でなく庭を引き継ぐ

敷地は都心から延びる私鉄沿線のベッドタウン。築30年ほどの瓦屋根の載る和風住宅に、子どもが独立したあと夫婦2人で住むには広すぎるし冬は寒い、そこへ娘家族が同居することとなった2世帯住宅のプロジェクトです。当初は既存家屋の改修を検討しましたが、詳細調査(※1)を行ったところ雨漏りを繰り返していた玄関部から腐朽が進み、2階の梁まで蟻害があることがわかり断念しました。
(※1)住宅医協会に依頼

撮影:淺川敏

宅地整備によって生まれた長方形の敷地に、南面するリビングの庭越しに隣家の北壁が見え北側には裏の隣家の庭が続くという、郊外住宅地の典型的な配置が繰り返される。夫婦が慣れ親しんできた住まいと丹精に世話をして来た庭。その空間をできるだけ維持するため、既存家屋のフットプリントをそのまま踏襲して新築して1階を親世帯、2階を子世帯とし、庭を「改修」することとしました。

室内と庭を組み合わせる


撮影:淺川敏

庭側2間半、北側2間の非対称な切妻屋根の載る単純な骨格の建物。以前との大きな変更点は、以前は北側の駐車場の奥にあった玄関を南の庭側に移動し、両世帯が家に出入りするたびに庭を見ることができるようにしたことです。


撮影:淺川敏

外壁は、庭に面する1面のみ杉板張りとし、植栽の背景に自然なむらのある表情が見えます。内部は棟(むね)に沿って背骨のように間仕切り壁が通り、1・2階とも庭に面する南側が人の集まる生活空間=リビング・ダイニング、北側が静かな生活空間(寝室や水回り)となっています。


撮影:淺川敏

1階の南側は庭に沿って異なる3つの空間のまとまりが展開します。共用の玄関ポーチ前の果樹の庭、親世帯のリビングの前の芝の庭、和室の前の和の庭。室内の天井は低くおさえ、引戸によって回遊性のある間取りとなっています。南側の空間は褐色の和紙張りの天井と濃い褐色の珪藻土の壁。


撮影:淺川敏

一方2階の南側のリビングは庭を上から見下ろす「広場」のような場所。小屋組の見える勾配屋根が高くかかり、北側の寝室にはリビングに向かって小窓があけられ入れ子の町のようになっています。

庭が住まいとまちをつなぐ


撮影:淺川敏

庭の改修はランドスケープアーキテクトの古内時子さんに依頼しました。細長い長方形の庭に大きめの木が2本加えられただけで新たに遠近感がもたらされ、手前(玄関前)から奥(和室前)へと豊かなシークエンスが生み出されました。


撮影:淺川敏

室内から見ると、庭と部屋とのまとまりが構成され、手前の梅の木が近景をつくって庭の景をひきしめています。


撮影:淺川敏

道路が宅地から1.5メートルほど低いため、周辺の家並はガレージのシャッターと擁壁で非常に閉鎖的でした。ここでは駐車場のために掘り下げた場所に柵は設けず、ささやかな植栽による庭を構成しました。玄関先から駐車場まで薄緑色のタイルを貼り込み、道路の延長部分の床を丁寧に設えることで、まちに参加する態度を表明しています。